長財布でないミュウミュウ財布
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null 元日の朝、目が覚めても、蒲団をたたんで押入れへしまうなど、無駄《むだ》なことであった。訪ねて来る者もいるはずはなく、起きてもいずれ蒲団の中へもぐりこむことになるのは知れていた。  四畳半に小さな台所がついて、窓がひとつ。それきりの狭いすまいで、栄介は蒲団から這《は》いだし、ドアのすき間からのぞいている朝刊を引き寄せ、また蒲団へ戻《もど》った。  商店が全部休んでしまうから、食料だけはたっぷり用意してある。食いたいとき食って寝たいとき寝ればそれでいい、気ままな数日間なのだ。  分厚い新聞をガサガサとひろげ、ゆっくりと読み進んだ。もちろん、きのう抽せんがあった例の宝くじの当せん番号にも目を通した。  全部読みおえると顎《あご》を枕《まくら》に引っかけるようにしてしばらく目をとじ、まだ睡《ねむ》れないと判ると、のっそり起きあがって古びた食器棚《しよつきだな》の引出しをあけた。  暮れに買った宝くじを一枚つまみだす。  どうせ当たっているはずはないが、今すぐ番号を照らし合わせておかないと、つい忘れてそのままになってしまうことが多いのだ。  宝くじ……いや、夢とはそんなものなのだろう。夢を持った直後はそれに熱中している。しかしだんだん冷静になり、確率から言っても自分の人生のパターンから考えても、とてもそんな夢は実現しそうもないと判ってくる。  蒲団へ戻った栄介は、すでに番号を照合したあとのあじけない気分を予想していた。  新聞をめくって当せん番号の欄があるページをひらき、右手にくじを持って見くらべはじめた。  栄介はいつものことで、欄の下から見て行った。五十円なら何度も当たったことがある。  丁寧に見て行ったが、当たっていなかった。だんだん欄の上になり、望みはどんどんうすれて行った。 「うッ……」  栄介が妙な声をあげたのは、一番上の番号へ行ってからであった。  栄介は寒さも忘れて蒲団の上へ起きあがっていた。  寒さのせいではなく、緊張のあまり手がふるえていた。 「ばかな……そんなばかな」  さっきから、もう何度もそうくり返していた。