收藏

ブラ ンド 財布 コピ ー商品編集

 あとから知ったことだが、この物音の主は、まっすぐに淑夜をめざして歩いてきていたのだ。  淑夜が、銀漢をさえぎる影を見たのは、音がすぐ耳もとでとまった直後である。同時に、ぬっとつきだされた影の中に金緑色に光るものを見た。夜行性の獣のようにぴかぴかと底びかりする双眸だった。が、たしかにそれが人の眼である証拠に、影は、 「おい」  腹にひびく声で、人語を発したのだった。  男の声だった。声の落ちつき具合から察するに、淑夜よりは年上らしいが、まだ若いことはかわりない。ぶっきらぼうな口調から、淑夜は相手の容姿をなんとなく想像できた。  上背のあるがっしりとした体躯に、粗けずりな顔だち。中原のずっと西、どこまでもひろがるなだらかな草原地方の上を吹き渡っていく風——連想は、ことばのわずかな抑揚に微妙な癖があったせいだ。  とにかく、陽気で信頼のおける漢《おとこ》の声だと淑夜は直観した。  そこまではよかったのだが——。  次に相手が口にしたことばで、淑夜は一気に緊張の糸を切られることになる。 「おせっかいかもしれんがな。そんなところで寝てると、風邪をひくぞ」 「寝ているわけでは、ありません!」  あまりにも的はずれなせりふに、淑夜は思わずわれを忘れ、憤然と怒鳴りかえした——つもりだったが、声は喉の渇きのために無惨にかすれてかき消えた。同時に全身を駆けぬけた激痛に、うめき声をおし殺す。胸郭の痛みは、肋骨になにか支障があるせいだろうが、自分では診断のしようがない。 「じゃ、腹が減っているのか。いきだおれというわけだな」  前にもまして激しいいきおいで反論しようとして——できなかった。いわれたとたんに、腹が鳴ったからだ。  そういえば、昨夜からろくに食べていないことを思いだしたのは、その直後だった。食料は持っていたものの、煮炊きの煙をうかつにたてるわけにはいかなかったのだ。  淑夜は、赤面するのをおさえられなかった。唯一の救いは、この闇の帷幄《とばり》のおかげで相手には見えないだろうということだったのだが、  棄才は、身体をかがめたまま枯れ草のあいだをとおりぬけ、羅旋の隣——淑夜の反対側にぴたりとひかえた。 「そりゃあまた、あわてたものだな。不眠不休か」
表示ラベル: