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null「何を誤解してるんだ、きみは」 「私が何を誤解しました。今あなたはおっしゃったじゃありませんか。広島生まれがくだらないとは何事ですか。あなたには常識ってもんがあるんですか」 「きみ、なんか勘違いをしているようだね。広島のカキみたいに口をとざしていたやつが、急にしゃべりだして……まあちょっとハナちゃん、書いといてくれたまえ」 「ハ、ハイ。あ、すみません」  ハナ子も鼻の下にはさんでいた鉛筆を落とし、夢から覚めたような顔をしている。  捜査室の中央を伝兵衛は行ったり来たりし、考えをまとめていた。立ち止まり、一気に口述をはじめた。 「素朴な成績で中学を出、とある温泉町の消防団に入った彼は、その素性を黙して語らない。なぜか落日を見つめていた。ま、こんなもんだろう。……きみ、何か言いたいことがあるんじゃないのか? いや遠慮しなくてもいいよ。きみ、なかなかおもしろいこと言うからね、興味があるんだ」  留吉は怒りを押さえながら言い放った。 「どういうことでしょう、私にはさっぱりわかりません。山田太郎はただ単に死体を発見しただけだと思われますが」 「こりゃまたさみしいことを言ってくれるねえ、いい若いもんが。並みの消防団員だったら、火事がないならテメエで火つけといて消しに行くくらいのことはやるぜ。またそれが、人間のあるべきほんとうの姿というもんだよ」 「容疑者大山金太郎を取り調べる前に、発見者である山田太郎への必要以上の考察は無意味だと思われます」 「けだし正論だね。『まず発見者を疑え』とカビの生えた空手形をふりかざすつもりはないけどね、この伏線を引いとけば、あとで退屈しのぎくらいにはなるだろうよ」 「何をおっしゃるんです」 「まあ聞きたまえ。……それに、おれは今、つっかかることなしに『落日を見つめていた』としめくくったがね。やぼったいかね? 今の『落日を見つめていた』ってのは」 「しかし因果関係の問題からして、発見者である消防士、山田太郎がゆきずりの山口アイ子を殺す動機がありません。それに何より、容疑者大山金太郎が捕えられているんですよ」 「おれがね、警視庁でふんぞりかえっていられるのは、容疑者でございって顔してるやつをのさばらせてこなかったからなんだぜ。容疑者がいようがいめえが知ったこっちゃねえやな。それにだよ、今時、人一人殺すのに動機がいるかねえ」  と、伝兵衛はもの珍しい動物でも見るかのように、留吉のまわりをぐるぐるまわり、自分の言ったことにうなずいていた。人を食ったようなその論法に、留吉はなす術《すべ》を知らなかった。背の高い留吉のまわりを、小男が背広の品定めでもするかのようにぐるぐるまわるので次第に留吉は気色が悪くなっていた。 「おれねえ、動機をもってそうな容疑者ってきらいなんだ。ま、これも趣味の問題かもしれないがね。そりゃあ、間をもたせる意味で、動機はなんだときくこともあるが、そんなもん時候の挨拶《あいさつ》と同じようなもんだと思っていたがね」