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null 経理の部屋に入った朝倉は、わざと|眉《まゆ》をしかめ、左手で|額《ひたい》を揉んでいた。当然のことだが、部屋の奥に並んだ部長と次長のデスクは空いている。 「どうだね、体の具合いは?」  係長の粕谷が心配気に尋ねた。 「大丈夫、と言いたいんですが、どうも頭痛のほうが消えたりぶり返したりで、どうもはっきりしないんです。さっき電話してから、すぐに戻ってこようと思ったんですが、医者の注射が効いて急に汗がダラダラ出てきて歩けなくなったもんで……済みませんが、今日は|早《はや》|退《び》けさせてください」  朝倉は苦しげに言った。 「こじらせてしまうと、あとが大変だよ。早く帰って、ゆっくり寝たまえ」 「有り難うございます。もしかしたら、明日は会社を休ませて頂くかも知れませんが」  朝倉は殊勝らしく視線を落とした。 「気をつけてな」  主任は意味の無い笑いを浮かべた。  会社を出た朝倉はタクシーに乗った。まだラッシュ時になってないから、この時刻なら上目黒のアパートに戻るのに車のほうが電車よりは早い。  世田谷赤堤のほうのアパートに京子が待っている筈であった。  しかし、朝倉は京子を待たせ続けておく積りだ。今夜はいそがしくなりそうだから、いつまで待たせることになるかは分からない。  先ほど、久保が三友銀行の貸し金庫を訪れたことから見て、久保は鈴本の指令のもとに動いているのではない、という確信を朝倉は持ちはじめていた。  久保が、わざとカモフラージュ行動をとっているのでないとすれば、貸し金庫に金子のメモのネガや写真を戻したか新たに預けたかしたものと思われる。  久保が鈴本の使いなら、ネガ類は鈴本に戻した筈だ。  上目黒のアパートに戻った朝倉は、黒っぽい背広とコートに着替え、デミフォーンや補聴器などを移す。  録音したテープは抜いてベッドに突っこんだ。