ミュウミュウスタッズバック
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null こうして帰って来て、今、三人は旅の仕度《したく》を始めたのだ。 「トランクって、頑丈《がんじよう》なもんやな」  久吉は呆《あき》れたような語調で言い、 「俺には、柳行李《やなぎごうり》のほうが、軽くてええような気がするわ」 「けどな久吉、これだって便利やで。ポケットも付いているし、鍵《かぎ》もかけられるし、持つ所もあるでな。それに腰かけの代わりにもなるわ」 「けど、風通しが悪いわ」  言いながらも、二人は手を休めずに、次々と物を詰めこんで行く。レザー、櫛《くし》、ノートブック、鉛筆、パジャマ、シャツ、ジャケツ、ズボン、歯《は》刷子《ブラシ》、どれもみな、ここに来て与えられたものばかりだ。 「フラッタリーを出る時は、何もあらせんかったのになあ。大変な財産や」 「そうやなあ。けど、岬でだって、干し魚やせんべいを餞別《せんべつ》にもろうたで」 「ああ、そやそや。そう言えば、頭の髪を結ぶひもももらったな。けど、丸裸と同じやった」  久吉が上機嫌《じようきげん》で小さなガラスの瓶《びん》を新聞紙に包み、トランクの蓋《ふた》の裏のポケットに納めた。 「とうとうギヤマンの土産《みやげ》を持って帰れるんやで。父《と》っさまや母《かか》さまが、驚くやろな。喜ぶやろな」  息子はとうに死んだと諦《あきら》めているにちがいない父母の喜びようを思いながら、久吉は言う。 「ほんとやな。夢みたいや。今日一晩ここに寝たら、明日は船の上なんやなあ」  音吉はダァ・カァからもらった石鹸《せつけん》を、きちんとタオルに包んでトランクに入れた。次は、パン焼きの職工からもらったフォークとナイフとスプーンだ。  音吉はふっと、宝順丸の上で、行李《こうり》の整理をしたことを思い出した。あれは確か、仁右衛門が死んだ後だった。水主頭《かこがしら》の仁右衛門は、オリンピア連山の雪の輝きを見て、 「おお! あれが陸《おか》か」  と、岩松の腕の中で声をふるわせたのだ。あの時岩松は言った。